The Killing of Alydar

彼は死んだ。


そう遠くない昔、アリダーという世界のサラブレッドのなかでも最強の内の一頭にあげられる馬がいた。数々のレイズアネイティヴ産駒のなかでも、競争能力においてはまぎれもなく NO.1 といえる名馬。アメリカの 4 歳クラシックこそすべてアファームドの 2 着という成績だったが、シャンペンSやトラヴァースSなどではアファームドを破っており、8 〜 10 F 戦に関しては無敵の強さを誇った。時代が悪かったのだ。さらに、アリダーの非運は繁殖にも続く。レイズアネイティヴ最高傑作とも賞されるアリダーだが、こと繁殖となるとミスタープロスペクターという偉大な馬があまりにも抜けた成績を残している。ミスタープロスペクターにはアリダーにはない安定性があった。


この記事はアリダーの死についての話・・・



1992 1月23日 レーシングタイムズ紙


アリダーの死は殺害なのか!!


1990年11月13日
馬房内で暴れて馬房のドアを蹴り、骨折した!すぐさま担当の獣医がかけつけ緊急手術したが、24時間とたたずして再度骨折、安楽死とされた。
カリュメット・ファームの至宝アリダーは、巨額の負債をかかえた同場経営者のJ・T・ランディー氏による保険金搾取のための犯行ではないのだろうか…

こんな疑惑がレーシングタイムズ紙であがった。アリダーには多額の生命保険がかけられていた!このとき、アリダーの経営者 J・T・ランディー氏が受け取った保険金の額が推定3650万ドル。当時のレートを日本円に換算すると約50億。死亡した当時、この不運な事故を誰もが信じられなかった。



8ヶ月後・・・

Eight months later, Calumet itself unraveled, forced to declare bankruptcy with more than $127 million in debts.

カリュメット・ファームは1億2700万ドルもの債務を抱えて倒産した。当時の地元スポーツ紙の記事によると、ファームの手形、銀行ローンなどの支払いは数百万ドルのアリダーの種付け料なしには払えない、カリュメットはそれが故に馬達を骨折させ、機材を競売にかけたとある。



ケンタッキーの一部の競馬ファンには、レースでも種牡馬としてもパワフルな活躍を見せていたアリダーが木のドアを蹴ったくらいで致命的な骨折を起こしたことが信じられなかった。そりゃそうだ。そんなひ弱な馬じゃない!


だが、競馬ファンの疑いが強くあっても、巨額の保険金搾取の可能性のある事件であっても、当局の捜査は通常の保険金詐欺とは勝手が違った。手がかりはアリダーの遺体と関係者の証言のみ。厩務員の証言から手がかりはでてこない。「厩務員もグルで鈍器で脚を骨折させた」など様々な推測は飛び交うが証拠までに至らない。出所不在。疑惑があっても証拠がない。まるで深い砂漠に隠されたオアシスなんだ。


たとえ一本の脚が骨折しても、それが重度であれば安楽死処分をとらなければならない…これが競走馬としての宿命だ。だからこそ、直接的な殺害・死亡でない。これが、犯罪の実証に困難を極めた。競馬ファンの疑いは晴れないものの、真相は闇の中だった。本当にアリダーの骨折は事故だったのか?証拠は見つからぬままなのか。


事件は息を潜めた。


Was the end of story … ?



1996年


ある一人の弁護士助手によって事件は再び動き出す。ヒューストンのダウンタウンにある小さな事務所。彼女の名前はジュリア・ハイマン(結婚前はジュリア・トマラ)。競馬なんて全く興味のない縁のない生活をしていた。その頃、彼女はアメリカの歴史における最も悪質な経済不祥事の調査をしていた。テキサスの経済保険会社はもう 100 以上の不正をやっていたのだ。彼女の仕事はマネーロンダリング、空小切手といったホワイトカラーの犯罪を暴くことだった。


ある日の午後、トマラはある事件の詐欺の証拠を探すために、今は無きヒューストンの First City National Bank の資料を調査していた。なかなか仕事は進まず、資料に目を通しているうちに彼女はある資料に目を止めた。それが、Calumet Farm の資料だった。彼女はアリダーの資料を見つけたとき、さらに目を止めることになった。


トマラは黒髪でスタイリッシュな黒のスーツに身をまとうエレガントな女性だった。ヒューストン一の美人弁護士助手は一度も競馬というものをみたことがなく、アリダーのことを一切知らなかった。



1997年夏


トマラは競馬の資料を探すためにケンタッキーに行くことにした。競走馬がどのようにして生まれ、死んだのかを確かめるためだった。彼女は新人の FBI 捜査官 ロブ・フォスター に付いていくことになった。彼は由緒正しい大学の野球選手で実地調査にいくのは初めてだった。しかも、彼もまた競馬についての知識が全くなかった。


トマラとフォスターは、




あとがき


競走馬は確かに経済動物であり、その生命与奪は人間の手により動かされる。動物愛護の思想では競争をさせること、それ自体も疑われるだろう。ただ、何もわからないアリダーが受けた悲劇が人の手によるものだとしたらあまりにも残酷で心が痛まれる。



その後、2000年までAlydarアメリカでBMSとしても成功しミスタープロスペクターに続いて2位の座を守りつづけた。その血は日本にも輸入され、BMSとして非常にパワフルな産駒を出している。

産駒の特徴
レイズアネイティヴ直仔では競走能力が最強のアリダー。当時、ありふれていたナスルーラを持たないことからナスルーラ系の繁殖を集めて人気をあげた。
母系にブルリーを強く持ちミスタープロスペクターとは異なる。直仔イージーゴアが典型的、かつ最高形の馬体。前傾のパワフルなダート体型。クリミナルタイプのようにアメリカのパワー血脈で構成されている馬からはその通りのパワー型ダート馬が誕生する。リンドシェーバー含めて、新馬、未勝利ダートに強く勝ち上がる。


代表産駒:クリミナルタイプ = 犯罪の事例



参考文献


優駿達の蹄鉄(血統、戦績)
http://csx.jp/~ahonoora/alydar.html
その成績の1,2着馬にアファームドがズラリと並ぶのが壮観
Alydar's Groom Convicted

The Killing of Alydar
http://web.archive.org/web/20020207054746/www.texasmonthly.com/mag/issues/2001-06-01/feature4.phpDespite
Sympathy From the Jury
http://web.archive.org/web/19990428114021/http://horsenet.com/news/pr/alydar_7.2.html
Calumet Farm execs sent to prison
http://web.archive.org/web/20030704001844/http://morningsun.net/stories/102000/spo_1020000054.shtml
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